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東京高等裁判所 昭和43年(ネ)467号 判決

控訴人(四六七号事件)

唐木三郎

代理人

前田知克

ほか一名

控訴人(四二三号事件)

中央信用金庫

被控訴人(両事件)

田竹一男

ほか五名

代理人

立野輝二

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は参加によつて生じた分を除き第四六七号事件控訴人の負担とし、参加によつて生じた分は補助参加人(第四二三号事件控訴人)の負担とする。

事実

第四六七号事件控訴人(以下単に「控訴人」という。)の訴訟代理人(以下単に「控訴代理人」という。)および第四二三号事件控訴人(以下単に「補助参加人」という。)の訴訟代理人(以下単に「補助参加代理人」という。)は、いずれも「原判決を取り消す。控訴人に対し、被控訴人田所は原判決別紙目録(二)の土地を、被控訴人小島は同目録(四)の土地を、被控訴人山本は同目録(五)(六)(八)の土地上のブロック塀および車庫を収去して右各土地を、被控訴人川田は同目録(七)の土地を、被控訴人雄賀多は同目録(三)の土地のブロック塀および物干場を収去して右土地を、被控訴人竹内は同目録(一)の土地上に建築中の建物(木造二階建二棟五戸建延坪約198.34平方米)を収去して右土地を、それぞれ明け渡せ。被控訴人らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は、第一、二審ともすべて被控訴人らの負担とする。」との判決ならびに第二項につき仮執行の宣言を求め、被控訴人ら訴訟代理人は主文第一項同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述ならびに証拠関係は、左記のとおり訂正・付加するほか、原判決事実欄の記載と同一であるから、これを引用する。

一、右事実欄の記載中に「雄賀」とあるのはいずれも「雄賀多」の誤りにつき訂正する。

二、控訴代理人は当審証人前沢一布の証言を採用した。

理由

本件土地について、もと森某がこれを所有していた当時、補助参加人が株式会社丸栄商店に対して有していた控訴人主張の消費貸借契約に基づく元本金一、三〇〇万円およびこれに対する約定の利息・損害金の債権を担保するため、控訴人主張の抵当権設定契約が締結されるとともに、昭和三四年四月二一日東京法務局大森出張所受付第一二五八五号をもつてその旨の抵当権設定登記がなされたこと、本件土地には、右抵当権設定登記とは別に、これより先順位の前同日同法務局出張所受付第一二五八四号をもつて控訴人主張の地上権設定登記がなされていることについては、原判決理由欄冒頭より原判決原本一〇枚目表三行目までの当事者間に争いのない事実および原審認定の記載(ただし「株式会社丸栄商会」とあるのは「株式会社丸栄商店」と訂正する。)をここに引用する。そして、また〈証拠〉によると、本件土地には、前同日同法務局出張所受付第一二五八六号をもつて右消費貸借契約による債務を弁済しないときは所有権を取得する旨の停止条件付代物弁済契約に基づく仮登記がなされていることが明らかである。

ところで、本件地上権設定登記につきその登記原因とされている控訴人主張の地上権設定の合意の存否については当事者間に争いのあるところであるが、この点に関する判断はしばらく措き、かりに控訴人主張の地上権設定契約がその主張のとおり有効に成立したものとしても、当裁判所は、左記の理由により、右地上権については控訴人がこれを補助参加人から譲り受けたと主張する時期には既に消滅していたものと判断せざるを得ない。

本件地上権が補助参加人の株式会社丸栄商店に対する前記債権を担保する目的で設定登記されたことは、控訴人において自認するところであり、〈証拠〉によれば、右地上権の設定登記申請書およびその委任状には本件地上権の内容として「設定目的 工作物所有のため。契約期間 期限の定めなし。地代 なし。」と記載されており、また右設定に関しては、補助参加人から本件土地の当時の所有者に対してなんらの対価も支払われたものでないことは、本件弁論の全趣旨から明らかである。このことと前記認定の事実からすれば、同一の前記消費貸借上の債権を保全するため本件抵当権と地上権と条件付代物弁済とが競合的に登記されたものにほかならないのであり、このような債権担保のための地上権は、抵当権の実行または代物弁済を受けるにいたるまでの間に第三者が利用権を取得するのを事実上防ぐとともに債務不履行の場合は、これに基づき自ら目的物件を利用するかまたは他にこれを処分してその代金を債権に充当するという担保作用を営むものであると解される。そして、このような場合には、その抵当権と地上権と条件付代物弁済の各登記の順位の先後にかかわらず、特段の事情のないかぎり、債務者が債務を履行しないときは右担保権の実行方法としていずれを執るかは債権者の自由な選択に委ねられているけれども、債権者がいつたん抵当権の実行を選択して競売手続が開始されたときは、右手続が競売申立の取下その他の事由によつて終了しないかぎり、債権者は条件付代物弁済を主張しえないと同様に右地上権による担保目的の実行をすることができず、したがつて、右手続において競落許可決定が確定し競落人競売不動産の所有権をが代金を完納して取得することにより右競売手続が完結した後は、もはや地上権はその目的を喪失して存続しえなくなるものと解するのが相当である。けだし、同一の債権を担保するため抵当権と地上権とが競合的に設定された場合には、抵当権の把握する価値権の内容は地上権の内容たる価値をも包含するものと解することがこれを設定した当事者の客観的意思に合致し、これと反対に解するときは、地上権の存在が抵当権の担保価値を減殺し抵当物件の競落価額を低下させて抵当権設定の趣旨といわば矛盾する結果を生ずるわけであり、またそうでないとすれば、債権者が抵当権の実行後に地上権を主張して競落人の犠牲のもとに目的物件の本来の価値以上のものを取得するという不合理を生ずるからである。

本件において、補助参加人が昭和三六年一月三一日本件土地について共同担保たる他の土地とともに前記抵当権に基づき競売申立をなし、かつ、その後被控訴人田所が昭和三七年七月三日本件土地を競落し、昭和三八年二月五日右競落による所有権移転登記が経由されたことは当事者間に争いがないのであるから、それまでの間に右競売手続が完結しており、他に特段の事情も存しないから(原審証人小野景義および当審証人前沢一布の各証言によれば、本件地上権の設定登記をとくに抵当権の設定登記より先順位にしたものであることが認められるが、そのことがここにいう特段の事情にあたるとすることはできず、また〈証拠〉の公正証書によれば、本件抵当権と条件付代物弁済とはそのいずれかを債権者において選択できる旨約定されていることが認められるが、同公正証書ではなんら触れられていない本件地上権と右抵当権との関係については、これにより右と逆に解さなければならない理由はない。)右完結により本件地上権は消滅に帰したものといわなければならない(本件競売手続における鑑定人の評価書たる成立に争いのない甲第一六号証において、本件地上権設定登記がなんら斟酌されていないこともこの理に副うものである。)。

控訴人は昭和三八年五月一八日補助参加人から本件地上権を譲り受けたと主張し、これを前提として、右地上権に基づき被控訴人らに対する本訴請求に及んだものであるが、本件地上権が右控訴人の譲り受けたと主張する時期以前に既に消滅していることは前認定説示のとおりであるから、控訴人の請求は、いずれもその前提を欠くものであつて、参加人その余の主張についての裁判をまつまでもなく、失当というべきである。

次に、被控訴人竹内を除くその余の被控訴人らの控訴人に対する本件地上権設定登記ならびに同移転付記登記の各抹消登記手続請求は、いずれもこれを正当として認容すべきものと判断するが、その理由については、以上の認定のほか原判決原本一三枚目裏三行目から同九行目までの理由説示をここに引用する(ただし、被控訴人の表示中「雄賀」とあるのを「雄賀多」と訂正する。)。

以上のとおりであるから、控訴人の各請求を棄却し、被控訴人竹内を除くその余の被控訴人らの各請求を認容した原判決は結論において相当であり、控訴人の本件控訴は理由がない。

よつて、訴訟費用の負担につき民訴法第九五条、第八九条、第九四条に従い、主文のとおり判決する。(青木義人 高津環 浜秀和)

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